はじめに
飲食店を開業する際は、管轄の保健所から飲食店営業許可を取得することが必須です。
食品衛生法改正により、現在では原則すべての飲食店にHACCPに沿った衛生管理の導入が義務付けられています。
初めて開業される方にとって、各自治体の施設基準の把握や書類作成は大きなハードルとなりがちです。
本記事では、全国の飲食店開業に対応できるよう、
HACCPの運用手順から保健所検査の重要ポイントまで、行政書士が分かりやすく解説します。
1.飲食店に義務化された「HACCP(ハサップ)」の進め方
⑴ 制度の基本と小規模店の位置づけ
HACCPとは、原材料の入荷から最終製品の提供に至る全工程で、食中毒や異物混入などの危害要因を分析し、
重要管理点を連続的に監視・記録する衛生管理手法です。
① 対象範囲
個人経営のカフェ、居酒屋、ラーメン店などの小規模店舗(食品取扱従事者50人未満)は、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となります。
厚生労働省が公表している各業種別の手引書に準拠した運用が認められています。
② 導入のメリット
日々の記録を習慣化することで、万一の食品事故発生時に適切な管理を行っていた証拠となるほか、原材料のロス削減や業務効率化にも直結します。
⑵ HACCP導入の3ステップ
① 衛生管理計画の策定
店舗ごとに「一般衛生管理」と「重要管理」の2軸で管理基準を文書化します。
・一般衛生管理
調理器具の洗浄・消毒、従業員の健康確認や手洗い、冷蔵・冷凍設備の温度確認、清掃スケジュールの取り決めなど。
・重要管理
提供する料理を「非加熱(サラダ等)」「加熱後そのまま提供(焼き鳥等)」「加熱後冷却・再加熱(カレー等)」の3グループに分類し、加熱温度や冷却時間の管理方法を設定。
② 計画の確実な実施
策定した計画を現場オペレーションに落とし込みます。
・出勤時の手指消毒や検温の実施。
・開店前・閉店後の冷蔵庫温度チェック。
・パート・アルバイトへの衛生管理基準の周知・教育。
③ 記録および保存
実施状況を日報形式のチェックシートに毎日記入します。
・不備があった場合の対応(例:冷蔵庫の温度が上昇していた際に食材を廃棄した経緯など)も併記。
・記録票は原則1年間の保管が推奨されており、保健所の定期立入検査時に提示が求められます。
2.保健所検査をパスするための「店舗設備」の共通基準
⑴ 水回り設備の基準
全国共通のガイドラインを基に、各自治体の条例で細部が規定されています。
① シンク(洗浄設備)
・原則として2槽以上のシンク設置が求められます。
・食材用と食器用を分けるため、実務上は「食器用2槽+食材用1槽」の計3槽、
または「2槽シンク+食器洗浄機」の構成が一般的です。
・給湯設備を直結し、常に十分な温水が出る状態を整える必要があります。
② 手洗い専用設備
・調理場内およびトイレ内に、作業用シンクとは完全独立した手洗い器を設けます。
・水栓はレバー式、足踏み式、センサー式など、汚れた手で直接触れずに開閉できる仕様が全国的に推奨されています。
・液体石けん用ディスペンサーと使い捨てペーパータオルの常備が必須です。
⑵ 保管・衛生保持設備
① 冷蔵・冷凍設備
・庫内温度を外から目視確認できるよう、外部温度計(デジタルまたはアナログ)を取り付けます。
・基準温度(一般に冷蔵10度以下、冷凍マイナス15度以下)を常時維持できる性能が求められます。
② 食器戸棚・保管庫
・食器や器具の保管場所には、ホコリや害虫の侵入を防ぐ扉(引き戸または開き戸)付きの戸棚を選定します。
・床面清掃を容易にし、ネズミの侵入や湿気を防ぐため、床から10cm以上の隙間を空けて設置することが望まれます。
3.内装・レイアウトの施設基準チェックポイント
⑴ 衛生区画と床・壁の構造
① 調理場と客席の区画
・客席や外部からの雑菌侵入を防ぐため、調理場は壁、スイングドア、カウンター扉などで明確に区画されている必要があります。
② 床および内壁の素材
・床面はコンクリート、タイル、樹脂塗装など、耐水性があり清掃や排水が容易な素材を使用します。
・内壁は床面から1メートル以上の高さまで、耐水性および清掃性を備えた素材
(ステンレス板、キッチンパネル、タイル等)で仕上げるのが標準です。
⑵ 衛生環境を維持する付帯設備
① トイレの配置
・調理場への二次汚染を防ぐため、トイレの出入口が厨房内に直接面していない構造
(前室を設けるか客席側からの動線)にします。
・トイレ専用の手洗い器および消毒設備を必ず併設します。
② 換気および照明
・調理機器の上部全体を覆う大きさの換気フードおよび排気ファンを設置し、油煙や熱気を効率的に排出します。
・作業面の照度は300ルクス以上を確保できるよう、適切な照明器具を配置します。
・窓や開口部には網戸を設置し、害虫・ネズミの侵入防止対策を講じます。
⑶ 資格者の配置
① 食品衛生責任者
・営業許可を受ける各店舗に、最低1名の「食品衛生責任者」を置かなければなりません。
・調理師、栄養士、製菓衛生師などの国家資格所持者は自動的に資格を満たします。
無資格の場合は、各都道府県の食品衛生協会が開催する養成講習会(1日)を受講することで取得可能です。
4.営業許可申請の流れと必要書類
⑴ 申請手続きの標準的なスケジュール
内装工事の着工前および完成直前の2段階で動くことがトラブル防止の鍵です。
① 事前相談(工事着工前)
・設計図面(平面図・厨房機器配置図)を持参し、管轄保健所の食品衛生窓口で設備基準を満たしているか確認を受けます。
着工後の修正は多大な追加費用が発生するため、事前確認が不可欠です。
② 申請書提出(完成の約10日~2週間前)
・必要書類一式を提出し、現地確認検査の日程を調整します。
③ 現地確認検査および許可書交付
・保健所の監視員が店舗を訪れ、図面通りに設備が施工されているか検査します。
合格後、数日から1週間程度で営業許可書が交付され、営業開始が可能となります。
⑵ 提出書類一覧
① 共通書類
・営業許可申請書(所定様式)
・施設の構造および設備を示す図面(平面図・機器配置図など各2部)
・食品衛生責任者の資格を証する書類(合格証、受講修了証、免許証原本)
・申請手数料(業種や自治体により概ね16,000円~20,000円前後)
・水質検査成績書(井戸水やビル等の受水槽水を使用する場合のみ、直近1年以内のもの)
② 法人申請の場合
・登記事項証明書(履歴事項全部証明書)または法人番号の確認書類
まとめ
飲食店の開業許可を円滑に取得するには、全国共通の法令基準と自治体ごとの細かな運用方針の双方を正しく把握することが大切です。
特にHACCPに沿った衛生管理計画の作成や、着工前の図面チェックを怠ると、再工事や開店日の延期といった不測の事態を招く恐れがあります。
事前の入念な準備を進め、必要に応じて許認可の専門家である行政書士を活用しながら、万全の体制で理想の店舗オープンを迎えましょう。

