はじめに
行政書士は「街の身近な法律家」として親しまれていますが、
法律上取り扱うことができる業務の範囲には明確なルールが存在します。
特に弁護士法72条に規定される非弁行為の禁止や、
司法書士・税理士など他士業との職域境界(業際問題)への抵触は、
依頼者と行政書士の双方が正しく理解しておくべき重要なポイントです。
本記事では、行政書士ができる基本業務やできないことの線引き、
適切な相談の進め方を詳しく解説します。
1.行政書士法に基づく「できること」の基本業務
⑴ 官公署に提出する許認可等の書類作成および申請代理
① 事業に関する各種許認可・届出
・建設業許可、飲食店営業許可、古物商許可、宅建業免許など、事業の開始や継続に必要な申請書類を作成し、官公庁へ提出を代行します。
・産業廃棄物処理業許可や酒類販売業免許など、法令要件の調査や実地確認を要する手続きにも幅広く対応します。
② 外国人の在留資格(ビザ)関連業務
・申請取次行政書士が出入国在留管理局へ赴き、就労ビザや身分系ビザの申請手続を代行します。
・法務局へ提出する帰化許可申請の書類収集・作成をサポートします。
⑵ 権利義務や事実証明に関する書類の作成
① 契約書・合意文書の起案
・売買契約書、賃貸借契約書、業務委託契約書、秘密保持契約(NDA)など、将来の法的トラブルを未然に防ぐ契約書を作成します。
・離婚協議書や各種誓約書など、当事者間の合意事項を法的に適正な書面に落とし込みます。
② 相続・遺言関連の手続き
・戸籍謄本等の職務上請求による収集、相続関係説明図や相続財産目録の作成を行います。
・相続人間で合意が形成されている場合の遺産分割協議書作成や、自筆証書遺言・公正証書遺言の文案作成を支援します。
⑶ 事実証明・行政手続の付随業務
① 規約・議事録の作成および認証手続き
・法人設立時の定款作成や公証役場での定款認証手続きを代行します。
・株主総会議事録や取締役会議事録、各種団体の規約の作成を行います。
② 車両登録および丁種封印(出張封印)
・車庫証明の申請代行や、運輸支局で行う名義変更・変更登録の手続きを代行します。
・丁種封印の資格を有する行政書士は、自動車を陸運局へ持ち込まずに依頼者の車庫等でナンバー交換および封印の取り付けを行えます。
2.行政書士が「できないこと」と業際問題の境界線
⑴ 弁護士法72条に基づく非弁行為の禁止
① 紛争性のある案件の交渉・示談代行
・相続人間で遺産分けについて揉めている案件の交渉仲介や、
離婚時の慰謝料・財産分与を巡る対立の代理交渉は行えません。
・交通事故の過失割合や損害賠償額の示談交渉を代理することは非弁行為に該当し、
法律で厳格に禁じられています。
② 裁判所や法廷における訴訟代理
・裁判所へ提出する訴状の作成や、法廷に代理人として出廷して弁論を行う業務は弁護士の専権です。
⑵ 司法書士・税理士・社労士との業際境界
① 登記申請業務(司法書士の専権)
・定款の作成や認証は行政書士が行えますが、法務局へ提出する商業登記や役員変更登記の申請は行えません。
・不動産売買や相続に伴う名義変更(所有権移転登記)も司法書士の業務範囲です。
② 税務申告業務(税理士の専権)
・相続税の計算・申告書作成や、法人税・確定申告書の作成提出代行は行えません。
・具体的な税額の試算や節税相談も税理士の独占業務となります。
③ 社会保険・労働保険の手続き(社会保険労務士の専権)
・年金事務所や労働基準監督署、ハローワークへの雇用保険・社会保険の加入手続代行は行えません。
・就業規則の作成や届出も社労士の専権領域に属します。
⑶ トラブルを防ぐための適切な相談体制
① 予防法務と事後紛争の切り分け
・行政書士は「争いが生じていない段階」で合意を形にする予防法務のスペシャリストです。
・すでに相手方と対立している場合や法的紛争へ発展している事案は、最初から弁護士へ依頼する必要があります。
② 士業間の提携ネットワークの活用
・実務では行政書士が最初の相談窓口となり、登記は司法書士、税務申告は税理士と連携して進める体制が一般的です。
・自身の相談内容がどの資格の職域に属するか迷う場合でも、まずは窓口として状況を整理してもらうことがスムーズな解決につながります。
まとめ
行政書士は、許認可申請や契約書・遺産分割協議書の作成といった予防法務を中心に、
車庫証明や出張封印などの付随手続きまで幅広く暮らしや事業を支援しています。
一方で、紛争性のある交渉や法廷代理、
登記・税務申告などの専権業務を取り扱うことは法律で禁じられています。
業際問題の線引きを正しく理解し、他士業とスムーズに連携できる行政書士を活用することが、
確実で安心な手続き完了への第一歩となります。

