はじめに
旅館業(ホテル・ゲストハウス・カプセルホテル等)の開業を目指す際、最初に直面するのが「どの営業種別で許可を取るか」という問題です。
2018年の法改正により営業種別は簡素化されましたが、実際の許可取得では自治体ごとに定められた「上乗せ条例」が大きな壁となります。
本記事では、旅館・ホテル営業と簡易宿所の違いから、事前相談で必ず確認すべき上乗せ条例の注意点まで分かりやすく解説します。
1.営業種別の違い
まず、ご自身が計画している施設が「旅館・ホテル営業」と「簡易宿所営業」のどちらに該当するかを確認しましょう。
項目 |
旅館・ホテル営業 |
簡易宿所営業 |
定義 |
施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業 |
宿泊する場所を多人数で共用する構造で、人を宿泊させる営業 |
主な形態 |
ホテル、旅館、ビジネスホテルなど |
ゲストハウス、ホステル、カプセルホテル、スキー小屋など |
客室構成 |
原則として個室タイプ |
二段ベッドの相部屋(ドミトリー)などが可能 |
2.許可取得に必要な4つの基本要件
許可を得るためには、保健所(衛生)、消防署(防火)、都市計画法・建築基準法(立地・建物)ゴミの処理(清掃事務所)の基準をクリアする必要があります。
⑴ 構造設備基準(保健所)
➀ 客室面積
・ 旅館・ホテル
1客室あたり原則9平方メートル以上(寝台がない場合は7平方メートル以上)。
・ 簡易宿所
延床面積が3.3平方メートル以上(多数の宿泊者を泊める場合)。
・ 衛生設備
適当な数のトイレ、洗面所、入浴施設が必要です。近くに公衆浴場がある場合は施設内の風呂を免除できる自治体もあります。
・ 換気・採光
十分な換気、採光、照明の設備が必要です。
② 消防法基準(消防署)
宿泊施設は一般住宅よりも厳しい消防基準が適用されます。
・ 自動火災報知設備
原則として設置義務があります(面積による特例あり)。
・ 誘導灯・非常用照明
避難経路を示す灯火が必要です。
・ 防炎物品
カーテンやじゅうたんは防炎性能があるものに限定されます。
③ 立地・建物基準(都市計画法・建築基準法)
・ 用途地域
住居専用地域(第一種・第二種低層住居専用地域など)では、原則として営業できません。
・ 建築確認(用途変更)
既存建物の用途を「住宅」や「事務所」から「ホテル・旅館」に変更する場合、該当床面積(200平方メートル超)によっては用途変更の建築確認申請が必要です。
④ ごみの処理方法(事業系廃棄物対策)
宿泊施設から出るごみは家庭ごみではなく「事業系廃棄物」に該当します。地域のごみ集積所に捨てることは原則禁止されています。
・ 廃棄物処理業者との契約
許可を持った産業廃棄物・一般廃棄物処理業者と個別契約を結んで回収手配を行う必要があります。
・ 保管場所の確保
施設内に
・ 切な容量と衛生管理
(防臭・防鳥獣対策)を備えた「ごみ保管施設」を設置することが求められます。
・ 宿泊客への周知
分別ルールが分からない外国人観光客等のために、多言語でのゴミ分別案内を行う運用体制が必要です。
3.【重要】必ず確認すべき自治体の「上乗せ条例」
国の法律(旅館業法)の基準を満たしていても、自治体独自の「上乗せ条例」を満たせなければ許可は下りません。 近年、特に以下の点について厳しいルールを設ける自治体が増加しています。
➀ 玄関帳場(フロント)の設置基準
・ 対面での本人確認や防犯のため、フロントの設置やICT機器(設置型カメラやタブレット)による代替条件が細かく規定されています。
➁ 管理者の常駐・駆け付け要件
・ 無人営業を行う場合、不測の事態や近隣トラブルに対応するため「〇分以内に現地へ到着できる場所に管理者を配置すること」等の距離・時間制限が課される場合があります。
③ 近隣住民への事前説明・周知
・ 申請前に周辺住民への説明会開催やポスティング、標識(案内板)の設置を義務付けている自治体が多くあります。
➃ 学校・幼稚園等からの距離制限(意見照会)
・ 敷地から一定範囲内(例えば100メートル以内)に学校や児童福祉施設がある場合、保健所から施設管理者へ意見照会が行われ、照会結果によっては許可が下りない、または構造変更を求められるケースがあります。
4.許可申請の流れ
➀ 事前相談(最重要)
・ 物件の契約や工事に入る前に、必ず保健所・消防署・建築指導課へ図面を持って相談に行きます。清掃事務所には業務用ごみ処理方法を相談、上乗せ条例の有無もこの段階で確認します。
➁ 書類作成・申請
・ 申請書、各種図面、構造設備の仕様書、付近の見取図などを保健所に提出します。
③ 施設検査
・ 保健所や消防署の担当者が現地を視察し、図面通りに施工されているか検査します。
➃ 許可証交付・営業開始
・検査合格後、通常1〜2週間程度で許可証が発行され、営業開始となります。
5.簡易宿所と「民泊(住宅宿泊事業法)」の違い
営業スタイルによっては「民泊」という選択肢もあります。目的や営業計画に合わせて選びましょう。
➀ 簡易宿所(旅館業法)
営業日数 年間365日営業可能。
立地 住居専用地域での営業は原則不可。
➁ 民泊(住宅宿泊事業法)
営業日数 年間180日以内の制限あり。
立地 住居専用地域でも営業可能な場合がある。
まとめ
旅館業の許可取得は、単に法令を調べるだけでなく、物件が存在する自治体ごとの「上乗せ条例」を正しく把握することが成功のカギとなります。
物件の賃貸・購入契約や内装工事を進めてしまった後で「条例の基準に適合しなかった」という事態を防ぐためにも、早い段階での関係機関への確認が不可欠です。
当事務所では、事前調査から行政協議、各種申請手続きまでサポートしております。開業をお考えの方はお気軽にご相談ください。

