はじめに
インバウンド需要の高まりとともに、空き家やビルを活用した宿泊ビジネスへの参入を検討される方が増えています。
宿泊施設を開業するには、旅館業法に基づく営業許可の取得が不可欠です。
しかし、ご自身の計画が旅館・ホテル営業と簡易宿所営業のどちらに当てはまるのか、どのような基準をクリアすべきか分からず悩むケースも少なくありません。
本記事では、両者の違いや許可要件、申請の流れを専門家が分かりやすく解説します。
1.営業種別の違いと特徴
⑴ 旅館・ホテル営業
➀ 定義
・ 施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業や下宿営業以外のもの
➁ 主な施設
・ ホテル、旅館、ビジネスホテル、リゾートホテル、ペンションなど
➂ 客室構成
・ 原則として個室タイプであり、プライバシーを重視した宿泊施設に適しています。
⑵ 簡易宿所営業
➀ 定義
・ 宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を設けて、人を宿泊させる営業
➁ 主な施設
・ ゲストハウス、ホステル、カプセルホテル、スキー小屋、山小屋、ドミトリーなど
➂ 客室構成
・ 二段ベッド等を設置した相部屋形式での運用が可能です。
2.許可取得のための3大要件
⑴ 構造設備基準(保健所)
➀ 客室面積
・ 旅館・ホテル営業は、1客室あたり原則9㎡以上(寝台がない和室等の場合は7㎡以上)必要です。
・ 簡易宿所営業は、客室の延床面積が宿泊者1人あたり3.3㎡以上(宿泊定員10人未満の場合は、定員×3.3㎡以上)必要です。
➁ 衛生および水回り設備
・ 利用定員に応じた適当な数の便所、洗面設備、入浴設備(浴室またはシャワー室)の設置が求められます。
・ 近隣に公衆浴場がある場合など、自治体の条例によって施設内風呂の免除が認められるケースもあります。
➂ 採光および換気
・ 居室の床面積に対して一定割合以上の有効採光面積(窓など)や、適切な換気設備、照明設備が必要です。
⑵ 消防法基準(消防署)
➀ 消防用設備等の設置
・ 原則として建物全体への自動火災報知設備の設置が義務付けられます。
・ 避難経路を示す誘導灯や、停電時に点灯する非常用照明装置の設置が必要です。
➁ 防炎物品の使用
・ 使用するカーテンやじゅうたん等は、防炎性能を有する防炎表示ラベル付きのものに限られます。
➂ 消防法令適合通知書の交付
・ 保健所への申請にあたり、消防署が発行する適合通知書の添付が必須となります。
⑶ 立地および建築基準(都市計画法・建築基準法)
➀ 用途地域の制限 ・ 第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域などの住居専用地域では、原則として営業できません。
・ 主に商業地域、近隣商業地域、準工業地域などが営業可能な地域となります。
➁ 用途変更の手続き
・ 既存の建物を住宅や事務所等からホテル・旅館に変更する場合、対象床面積が200㎡を超えるときは建築主事等への確認申請が必要です。
3.許可申請手続きの流れ
⑴ 事前相談と準備
➀ 事前相談
・ 物件の契約や工事着工の前に、図面を持参して保健所、消防署、建築指導課へ相談します。
➁ 近隣関係者への周知
・ 自治体の条例に基づき、標識の設置や近隣住民への説明会開催などを行います。
⑵ 申請から営業開始まで
➀ 申請書類の提出
・ 申請書、施設計画図面、付近見取図、消防法令適合通知書などを保健所へ提出します。
➁ 現地検査
・ 工事完了後、保健所および消防署の担当官が現地を訪れ、基準への適合状況を確認します。
➂ 許可証の交付
・ 検査合格後、通常1〜2週間程度で許可証が交付され、営業開始が可能となります。
4.簡易宿所と民泊(住宅宿泊事業法)の比較
⑴ 簡易宿所(旅館業法)
➀ 営業可能日数
・ 年間365日の営業が可能です。
➁ 立地と設備
・ 用途地域の制限が厳しく、設備要件の基準も高くなります。
⑵ 民泊(住宅宿泊事業法)
➀ 営業可能日数
・ 年間の営業日数は180日以内に制限されます。
➁ 立地と設備
・ 届出制であり、住居専用地域でも営業が認められています。
まとめ
旅館業の営業許可を取得するには、保健所の衛生基準だけでなく、消防法や建築基準法、自治体の条例を横断的に確認する必要があります。
特に物件選びを誤ると、多額の改修費用が発生したり、用途地域の制限で開業自体ができなくなったりするリスクがあります。
計画の初期段階から各関係機関との事前協議を進めることが大切です。
物件選定や図面作成、申請手続きでお困りの際は、専門の行政書士までお気軽にご相談ください。

