はじめに
墨田区の錦糸町や押上、両国周辺でバーや飲食店の開業を目指す際、
初期費用を抑えられる居抜き物件は魅力的な選択肢です。
しかし、前の店舗が営業していたからといって、
そのまま営業許可や警察署への届出が通るわけではありません。
居抜き物件特有の申請ルールや設備基準を正しく理解していないと、
開店直前の思わぬ改修費用やスケジュールの遅れにつながります。
本記事では、墨田区での具体例を交えながら実務上の重要ポイントを解説します。
1.保健所の飲食店営業許可における注意点
⑴ 営業許可の名義変更は原則不可
第三者から店舗を引き継ぐ居抜き物件の場合、前のオーナーの許可を名義変更することはできません。
墨田区保健所(墨田区保健所生活衛生課)に対して、新規で飲食店営業許可を申請する必要があります。
① 相続や法人合併・分割といった法令上の事業承継を除き、賃貸借契約で前テナントから造作を買い取る通常の居抜きは完全な新規申請扱いです。
② 前店舗の廃業届が墨田区保健所に未提出のままだと、同一場所での二重登録トラブルが生じ、
手続きが滞るリスクがあります。
賃貸契約前に前テナントの廃業状況を確認しておくことが重要です。
⑵ 改正食品衛生法と施設基準の再確認
前の店舗が営業許可を取得していた時期によっては、現行の施設基準を満たしていないケースがあります。
① 厨房内の手洗い設備は、レバー式や自動水栓など「非接触・再汚染防止構造」が求められます。
古い回転式ハンドル水栓が残っている場合は、水栓金具の交換工事が必要です。
② 2槽シンクのサイズや給湯設備、食器棚の扉(密閉性)など、
現行基準に適合しているかを墨田区保健所の事前相談で図面を持参して確認する必要があります。
2.風営法・深夜酒類提供における「客室の見通し」基準
⑴ 1メートル以上の間仕切り・遮蔽物の禁止
深夜0時以降に酒類を提供するバー(深夜酒類提供飲食店営業)や、
接待を伴うスナック・ラウンジ(風営法1号許可)では、客室内に見通しを妨げる設備を設置できません。
本所警察署や向島警察署への申請・届出時に厳格にチェックされるポイントです。
① 高さ1メートルを超える衝立、パーテーション、ハイバックソファーの背もたれ、背の高い観葉植物などは「見通しを妨げる設備」と判断されます。
② 居抜き物件で前オーナーが「個室風の落ち着いた空間」として設置していた仕切り壁やボックス席の背もたれが1メートルを超えている場合、撤去や低くする改修を行わないと届出・許可が通りません。
⑵ 墨田区の実務例:錦糸町のバー居抜き事例
錦糸町南口の雑居ビルでバーの居抜き物件を借り、深夜営業届出を検討したケースを例にとります。
① 前店舗がバーとして営業していたものの、
ボックス席を区切る木製ボードの高さが床から1.2メートルありました。
② 警察署へ提出する営業所平面図の求積・測量段階で不適合が判明し、
ボードを高さ95センチメートルまで切り下げる工事を実施して受理に至りました。
居抜きであっても現況の寸法測定は必須です。
⑶ 死角を作らない客室配置
L字型や柱の多い変形店舗では、客席全体が見渡せない配置になりがちです。
死角が大きい構造の場合、1室として認められず複数客室とみなされ、床面積要件などの別基準に抵触する恐れがあります。
3.照度基準とスライダック(調光器)の取り扱い
⑴ 求められる照度基準の確認
深夜酒類提供飲食店営業では「客席の照度が20ルクス超」、
風営法1号(社交飲食店)では「客席の照度が5ルクス超」を維持できる構造でなければなりません。
① 20ルクスはおよそ新聞の文字が無理なく読める程度の明るさです。
ムードを重視するバーでは照明を落としがちですが、
法律上の最低照度を下回る設定は認められません。
② 警察署の現地確認では照度計による実測が行われます。
⑵ 調光器(スライダック・調光スイッチ)の制限
最も見落としやすい設備が、明るさを自由に変えられる調光ダイヤルや調光スイッチです。
① つまみを回して照度を0ルクス近くまで下げられる調光器が客席や厨房にあると、それだけで不適合とみなされる場合があります。
② 居抜き物件に調光スイッチが設置されている場合は、通常のON/OFFスイッチへ交換するか、
照度が基準未満に落ちないよう物理的に固定・結線変更する電気工事が必要です。
⑶ 墨田区の歓楽街エリアにおける警察署対応
錦糸町周辺(本所警察署管内)など飲食店が密集する地域では、
深夜営業や風俗営業の申請に対する図面審査・現地検査が非常に綿密に行われます。
① 図面上の照明配置図(照明器具のワット数や配置箇所)と、実測ルクスの計算根拠を整合させておく必要があります。
② 照明器具の交換や球切れの放置で基準を下回らないよう、設計段階で十分な光量を確保できる灯具を選定することが重要です。
まとめ
居抜き物件は開業コストを圧縮できる大きな利点がありますが、
保健所の衛生基準や警察署の風営法・深夜営業基準は前店舗から自動的に引き継がれません。
手洗い設備の仕様、1メートルを超える間仕切りの有無、調光器の存在など、
契約前の細かな現地確認が不可欠です。
墨田区でのスムーズな開業に向けて、物件契約前の段階で図面や現地状況を行政書士などの専門家へ相談し、手戻りのない計画を進めることをおすすめします。

