はじめに
2026年6月、成年後見制度と遺言制度の抜本的な見直しを盛り込んだ民法等の一部改正法が成立しました。
従来の成年後見制度は「一度利用すると本人が亡くなるまで原則やめられない」「包括的で柔軟性に欠ける」といった課題が指摘されていました。
また、自筆証書遺言も厳格な要式が負担となっていました。
本記事では、法改正の要点とあわせ、現場で相談が増えている「任意後見人が動いてくれない」といった実務上のトラブル対処法を詳しく解説します。)
1.成年後見制度の見直しと新運用のポイント
⑴ 利用者の尊厳と自己決定権を尊重する制度設計
① 必要に応じた利用終了(終了事由の柔軟化)
・本人の判断能力の改善や、不動産売却・遺産分割など特定の手続きが終了した段階での制度利用の終了が可能となりました。
・不要になった後見関係を解消できるよう、利用終了の申立手続きが整備されています。
・例えば、相続登記や遺産分割協議のためだけに一時的に後見人を立て、手続き完了後に後見を終了させるといった柔軟な対応が期待されます。
② 期間限定の利用やスポット型後見の導入
・特定の法律行為や特定の課題解決のみを目的とした権限付与が認められます。
・期間を定めて後見人を就任させる仕組みにより、利用者の費用負担や生活上の制約を大幅に軽減します。
⑵ 後見人の権限および選任基準の見直し
① 包括的代理権から個別的・限定的支援へ
・一律にすべての財産管理権を付与するのではなく、本人の残存能力に応じた必要最小限の代理権や取消権を設定します。
・代行決定ではなく、本人の意向を汲み取る「意思決定支援」を最優先とする義務が明確化されました。
② 身近な親族等の選任促進と支援体制
・専門職後見人だけでなく、親族が後見人に選任されやすくなる仕組みが整備されました。
・親族後見人の孤立や不正を防ぎ、適正な財産管理を両立するため、後見監督体制の強化や相談窓口の拡充が進められています。
2.遺言制度の見直しによる利便性の向上
⑴ デジタル化への対応と要式緩和
① 自筆証書遺言のデジタル作成・方式緩和
・全文自書要件の一部について、パソコンやタブレット端末等での作成を認める規定が整備されました。
・本人の真意を担保するため、電磁的記録の保存や認証手続きの仕組みが導入されています。
② 財産目録の作成負担軽減の継続強化
・パソコン作成や通帳コピー添付が認められていた財産目録について、作成方法のさらなる弾力化が図られました。
・預貯金口座や不動産の特定における表記ルールが合理化され、記載ミスによる無効リスクが低減しています。
⑵ 成年被後見人の遺言要件の整理
① 遺言作成要件の適正化
・事理を弁識する能力が一時的に回復した際における医師2名以上の立会い要件等について、実態に即した見直しと明確化が行われました。
・本人の「遺言を残したい」という意思を尊重し、円滑に遺言を作成できるプロセスが確立されています。
② 主な改正項目の比較整理
制度区分 |
従来の制度・課題 |
改正後の方向性 |
成年後見の終了 |
原則として本人の死亡まで継続 |
特定目的の完了や能力改善による終了が可能に |
後見人の権限 |
財産管理を中心とする包括的権限 |
必要最小限の権限付与・意思決定支援の重視 |
遺言の作成方式 |
原則として全文・日付・氏名の自書 |
電磁的記録の活用などデジタル対応と負担軽減 |
3.任意後見契約における実務トラブルとその対応法
⑴ 「受任先が何もしてくれない」主な原因の切り分け
① 契約の移行段階(発効前か発効後か)の確認
・任意後見契約は、公証役場で公正証書を作成しただけでは代理権は発生しません。
・本人の判断能力が低下した段階で、家庭裁判所へ「任意後見監督人選任の申立」を行い、監督人が選任されて初めて任意後見人の職務がスタートします。
・親族から「受任先が動かない」と相談を受けるケースの多くは、見守り契約や任意代理契約が適切に機能していないか、あるいは監督人選任申立の手続きが停滞していることに起因します。
② 契約内容と権限範囲の不一致
・契約書(代理権目録)に記載されていない事項については、受任者は法的に動くことができません。
・日常の身上保護(介護サービスの調整等)が含まれているか、
単なる財産管理に留まっているか、契約条項の確認が不可欠です。
⑵ 親族側から取れる具体的な対抗策と手続き
① 受任者への状況確認と督促
・まずは受任者に対し、本人の心身状況の把握状況や、
家庭裁判所への監督人選任申立の準備状況について書面等で説明を求めます。
・受任者が正当な理由なく職務を怠っている場合は、契約解除や受任者の変更を検討します。
② 任意後見契約の解除手続き
・任意後見監督人が選任される前であれば、本人または受任者は、
公証人の認証を受けた書面によっていつでも契約を解除できます。
・親族が本人の代理で解除することはできないため、本人の判断能力が残っている間に意思確認を行い、
速やかに手続きを進める必要があります。
③ 監督人選任後の解任申立
・すでに監督人が選任されて任意後見が開始しているにもかかわらず職務怠慢がある場合は、
家庭裁判所に対して「任意後見人の解任」を申し立てます。
・不正な行為や著しい不行跡、職務怠慢が認められれば、
家庭裁判所の審判により解任され、必要に応じて法定後見への切り替えが図られます。
まとめ
今回の民法改正は、成年後見制度を柔軟で使いやすいものへと転換し、
遺言制度をデジタル社会に適応させる大きな一歩です。
一方、生前対策として有効な任意後見契約であっても、
受任者との信頼関係や契約内容の設計次第で
「いざという時に受任先が動かない」といったトラブルが起こり得ます。
後見制度の選択や遺言書作成、契約後の適切な運用管理に不安がある方は、
法改正と現場実務の双方に精通した行政書士へ早めにご相談ください。

